講座・イベント
2017年7月1日 東京女子大学創立100周年に向けて、建築家 三沢浩先生をお招きして、「A・レーモンドは女子大計画に力を注いだ」の講演会が催されました。
同窓生、杉並地域や学外の方々など100名を超える出席者があり、講演会を無事終了したことを心より感謝申し上げます。三沢先生の貴重なスライドの上映と講演の後、希望者の学内散策が行われました。
アントニン・レーモンドの作品は戦前、戦後44年間、離日するまでに日本では400件余りですが、現存する60件の三分の一は教会、ミッションスクールです。女子大の有形文化財指定7つのアントニン・レーモンドの歴史的建造物も大事に守られています。
建築家である三沢先生は、レーモンド設計事務所で共にお仕事をされ、自伝アントニン・レーモンドの翻訳の他、レーモンドの建築に関する著書も多数お書きになったレーモンド研究の第一人者であります。
講演は、レーモンドの略歴と建築作品、主な作品の写真資料の説明に始まり、特にA・Kライシャワーと練った女子大建築計画に、アメリカ第3代大統領ジエファーソン設計の「ヴァージニア大学(1817)」が影響を与えたことは大変興味深いものでした。
ヴァージニア大学全体写真にある配置図の第1軸を教育軸とするプランを本学に取り入れ、加えてレーモンドの新しい発想は第2軸を、生活軸として旧体育館から東西寮へ続く配置である説明をされました。夜遅く戻る生徒が、第2軸の生活軸を通り、遅くまで活動していた旧体育館の明かりを目指し、東西寮へ帰る設計には遠く故郷を離れて勉学する生徒への深く暖かな思いがありました。
チェコ生まれのレーモンドの生い立ちからブラーグの大学で学び、アメリカのフランク・ロイド・ライト事務所で働いた経歴、ノエミ夫人(女子大の礼拝堂の祭壇や階段の彫刻、本館の室内装飾は、彼女の作品です。)との出会いなど、エピソードを交えた内容に近代日本建築の巨匠レーモンドの素顔にも触れることができました。
天才的に俯瞰図(パース)を描ける才能をライトに認められたレーモンドは、帝国ホテルの建設計画(1919)を進めるライトと共に来日しました。日本の伝統的な建築に近代性を学び、日本において建築家のトップを目指すアントニン・レーモンドはA・Kライシャワーに依頼された女子大計画に、大変な力を注ぐことになります。レーモンドは先人の建築を取り入れながらも見事に彼の独自性あふれる建築手法で設計しました。
ライトの影響から脱皮するために、チェコモダニズムを取り入れ設計された東西寮は、耐震を強化し、暖炉で熱された空気が部屋へ流れる工夫を凝らし、自然と一体感をもたせる窓は上下スライド式、寮の中心には寮すべてを繋ぐように塔(煙突と水槽)を配置するなど象徴的な設計でした。
体育館の舞台には、ヨーロッパのアウトシアターを取り入れ、額縁のないスタイルで舞台と客席の一体感を演出し、メインホールは地面と同じ高さでした。
安井てつ記念館は、オランダのモンドリアンたち、デ・スタイル派の「線と空間」を取り入れ、立方体を積んでいく手法で外観は大変立体的です。
礼拝堂の打ち放しのコンクリート造りは、パリ郊外のランシーにあるペレの作品の教会を真似ながらも、5色ガラス(実は、作成過程の発色の違いから42色になった。)がはめ込まれた壁面から太陽の光の動きで光が移り動く工夫がされてあり、日本独自のすずり石を側壁にはめこみ大変美しい。プレキャストのコンクリートの壁は、80年前とは思えない斬新さがあります。
本館は日本で最初の開架式図書館であり、正面左右の屋根下の隅落としの手法は、屋根を大きく見せ、より荘厳さを演出するライト風です。
東西校舎のスチールの上下スライド式の窓は、日本で初めての試みです。風通しがよく湿気の多い日本風土にあわせた細やかなレーモンドの手法があります。
講演会の最後には、正門の丸窓、本館、東西校舎、安井てつ記念館、外国人教師館、ライシャワー館、講堂と礼拝堂、そして在りし日の帝国ホテルや女子大の東西寮、旧体育館、アントニン・レーモンドやノエミ夫人のスケッチなど貴重なスライド140枚が上映されました。
女子大の建造物は存在するだけで輝きを放ち、大きな満足感を私達に与えています。同窓生のアイデンティティーの原点であるレーモンドの建築について正確に知ることができ、残されたレーモンドの建築の素晴らしい価値を再確認した講演会でした。
今後も、女子大のレーモンドの建築は、日本の文化への発信となり、多くの建築家や芸術家のインスピレーションを刺激していくことになることでしょう。
参考文献・資料 三沢浩講演会資料
垣内恵美子 編著 「文化財の価値を評価する 景観・観光・まちづくり」
企画委員会副委員長 永井千保子